人の名前や物の場所など、ちょっとしたことを忘れてしまうのはお年寄りに限らず若い世代にでもよくあることです。けれど年を取るにつれて、さらに忘れっぽくなってしまったりその度合いがひどくなってしまったりします。この物忘れが日常生活を送ることが困難なレベルにまで深刻化してしまう恐ろしい病気があるのです。

アルツハイマー病とは、認知機能の低下や人格の変化などを主な症状とする認知症の一種のことをいいます。大脳の委縮性疾患であり、進行とともに痴呆、失語、失行などの症状が見られる病気です。1907年に、ドイツの精神科医であるアルツハイマーが、記憶障害や認知障害が急速に進行して52歳で亡くなった女性の症例に関する論文を発表したことから、彼の名前をとって「アルツハイマー病」という病気が生まれました。日本では最もよくみられる認知症のタイプです。この病気の原因は、まだはっきりとは解明されていませんが、大脳皮質の神経細胞が減少することや、老人斑と呼ばれるシミのような異常構造が多発すること、神経細胞の中に神経原線維変化と呼ばれる繊維状の塊が蓄積することが原因として疑われています。また、同一の家族内で複数の人が発症することがあります。ダウン症の人はアルツハイマー病にかかる確率が健常者と比べると高いことも分かっています。

この病気の特徴としては、次のことが挙げられます。まず、物事を思い出したり考えたりすることにおいて困難が伴います。最近の出来事や約束、電話での伝言など、ちょっとしたことでも覚えていないことが増えます。人の名前や場所を忘れることもあり、そのために日常の生活の中で簡単な用事をこなすことですら困難になってしまいます。また、新しいことを学ぶことが難しくなってしまいます。人の言っていることを意識したり、意思の疎通をはかるのが難しくなるので、周りの人々と今までのような付き合いをしていくことは難しいです。周りのよくあるものや知っている人の名前などが出てこなくなってしまい、そのことに対してイライラしたり落ち込んでしまいます。失くしただけなのに物を盗られた、などと言って他の人を責めてしまうという患者さんも少なくありません。また、厄介なのは、この病気を患う患者さんは自分はどこも悪くないと思っていることがあります。そのため、周りの人が手助けしようとすると不機嫌になってしまいます。発病前に比べて振る舞い方や物事への対応の仕方が変わったり、性格が変わってしまうことも珍しくありません。

残念ながら、この病気は完治させることが出来る治療法は今はありません。けれど、患者さんが自立した生活を送るためには、集団認知刺激法と呼ばれる心理療法がとても高い効果を得られることが分かっています。この治療を行うことによって、記憶や生活の質を改善させることが出来ます。

アルツハイマー病の患者さんの介護をするのはとても大変なことです。もしも家族や大切な人がこの病気になったら、早めに病院で診察を受けて適切な治療を受けることが大切です。早期発見、早期治療で症状の進行を遅らせることが出来ます。